お通夜 1

友人が亡くなってからほぼ1ヶ月が経過したわけだが、
俺は、最近転職をしたこともあって、まだ慣れない新しい生活へ奮闘し
同時に気疲れをしている日々だ。
お通夜の夜をちょっと振り返りたいと思う。


お通夜の日は、小さなロータリーがある
すっかり陽が短くなって暗くなった私鉄の改札口で友人と待ち合わせた。

私鉄の郊外の小さな改札口からは、電車が到着するたびに帰宅する人の群れが足早に出て行く。
ここに来るまでの車内、駅が近づくにつれて気持ちがどんどん沈んで重苦しい気分になっていく自分がいた。

これまでは、何回もお通夜に出席をしたことがあったけど、
こんなにまで重い気持ちになったことは1度もなかった。
それは、そこまで故人と直接的な濃い関わりがなかったからだと思う。
全部がそうであったとは言えないけど、俺はただの列席者だったのだ。

仕事の都合で30分ほど遅れてきた友人の姿を改札で見つけた時には、俺はどこかでホッとするのを感じた。
何年も会っていなかったけど、どこも変わっていないし、懐かしさもこみ上げてくる。
以前となにもかわっていない。

そこに今にもあいつが現れて、よう○○ちゃん!って合流してもおかしくない雰囲気だった。
俺たちには、あいつが亡くなったという現実感がまだついてきていなかった。

斎場へと向かう道すがら、重い雰囲気を振り払うように
俺は友人が亡くなる前後のことを俺は饒舌に話まくった。
まだ実感が湧かないよねえ。と2人して幾度ともなく口にした。

街道筋にあるそう大きくない斎場に到着すると、出入り口に友人の案内の看板が出ていた。
看板を見ると2人とも言葉が出ない。
いつもあだ名で呼んでいたので、友人のフルネームの看板を見ると、
これは現実なんだな。と沸かなかった実感が少し湧いてくる。

入口からエレベーターに乗り2階で記帳を済ませると、すぐにとなりの焼香部屋に案内される。
部屋に入ると、祭壇には彼の笑っている遺影と白木の柩があり、手前に彼の奥さんが立っている。
もう大分焼香するの人たちははけてしまったようで、並ぶ人は1組だけで順番がすぐに来る。

2人横に並んで焼香を済ませると、目を真っ赤に腫らせた彼の奥さんが
「今日は来ていただいてありがとうございました。」
と優しい顔だけど気丈に挨拶をした。

俺たちも短く挨拶を済ませて、部屋から出て料理が振舞われている部屋に向かった。
どちらからともなくキツイねえ。と言う言葉が口をついて出た。

あの目を真っ赤にした奥さんの顔を見ているだけでも、かわいそうで辛いものがある。
あんな顔の奥さんの顔を見るのは、これまで初めてのことだった。
気丈に振舞う姿を見ているだけで、寂しさや悲しさが手に取るようにわかるのだ。

その日、俺は奥さんにぜひ渡したいものがあった。
それは生前あいつが、愛していた行きつけのもつ焼き屋の手ぬぐいだった。

その店の名前が入っている手ぬぐいは、毎年、正月明けの開店日に振るわれるものだった。
普通のお客さんにとっては、よくあるただの粗品なのかもしれないが、
それをもらったとあいつは、俺にそれはそれはとても嬉しそうに話していた。

多分、そのなんの変哲もない手ぬぐいに友達は常連の証を感じていたのだと思う。

俺は、ここに来る前にその店に寄り、ご主人にいきさつを話して頼んで
それをもらってきていたのだ。
ご主人は、供えてあげてよ。とにっこりして快くほかのお客さんにバレないように
こっそりそれを俺に渡してくれた。

供えてあげてよ。と言ってくれた優しい言葉と気持ちが心温まり、俺はとても嬉しかった。

奥さんに挨拶とそれを渡すためにも、俺たちはしばらく寿司をつまみビールを飲みながら
部屋で、しばしお通夜の終わりを待つことにした。

いつものお通夜だと、不謹慎だがだいたいビールを飲みながら故人とは関係のない話をして
しまうところだが、また饒舌さを取り戻してずっと2人で尽きることなく友人の話をしていた。

しばらくそうしていると、焼香を済ませた親族が入ってきたので、そろそろだなと再び部屋へと向かう。
部屋では、奥さんが先ほどの位置で誰かと話をしていたので、それが終わるタイミングを待ってから
近づいた。

2人で挨拶をすると奥さんに手ぬぐいを渡して、いきさつを話してぜひお供えしてあげてください。と言った。
その店に行ったことがある奥さんは、お供えしてくれると言ってくれた。

亡くなる前に、何度もあいつが俺にその店に行こうと誘ってくれたのに
行けずにすみませんでした。と俺は詫びた。

奥さんいわく、彼はもう酒を飲んではいけない身体だったので、
最後の方は1人で行くと飲んでしまうので、本当は行きたくて行きたくて仕方ないんだけど
あえて止めてくれる俺と行こうと行くのを自粛していたんだそうだ。

それを聞いて、とても申し訳ない気持ちになった。
きっとあいつは食べたかったろうな。

今回の入院にはいつになく友人は非常にナーバスになっていて、
連絡を絶ってほとんど誰にも入院していることは言わなかったそうだ。

痩せてしまった体や姿を気にして、その弱みを見せたくなかったのだそうだ。

とすると、やはり俺への着信はその数少ないそれを教えてくれた電話だったんだろう。

お見舞いに来て欲しくて、きっと俺と会いたかったのだろう。
亡くなる前日の電話でも、俺は彼とお見舞いの約束をしたくらいだったし、
弱みを見せてまで、俺に会いたがってくれていたのは間違いなかった。
それは、彼が俺に本当に気を許してくれていた証でもあった。

さらに後悔の念と申し訳ない気持ちが湧いてきた。

そこで、奥さんは俺たちに ぜひ顔を見てやってください。と後ろの柩に歩んで促した。
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by masa3406 | 2012-12-09 04:48


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