埋まることのない心の隙間

テレビで女流棋士の林葉直子が末期の肝硬変であるという現在の姿でのインタビューを見た。

かつての美貌が見る影もなく痩せ細ってガサガサの肌。
生気がない表情で、滑舌も悪く腹がぽこんと膨らんでいた。
紛れもなく俺が見た友人の末期症状と同じ姿だった。

血小板が少なくて吐血をしたり腹水が溜まって腹がパンパンだと
どこか客観的に自分の現状を見ているような、サバサバした話し方がをしているのを見て、
一昨年酒で死んだ友達でも見ているようで、様々な記憶が蘇ってきた。
腹水を抜いても抜いても、すぐにまたパンパンになってしまうのだ。

血小板が少なくなってしまっているのも友人とまったく同じ症状だった。

友人は食道に静脈瘤が幾度ともなく出来て何度も破裂して大量の血を吐いて、
何度か命を取り止めたものの
最後も破裂して血が止まらずにそれで死んでしまった。

ここに至るまでは、再三酒を止められていただろうけど
あいつと同じで酒をやめないでやめないでこうなったのだろう。
引き返せるチャンスはいくらでもあったのに
周囲の止める言葉にも耳を貸さずに引き返さなかった、あいつと同じ破滅型タイプの人間なのだと思う。
わかっちゃいるけど止められないアルコール依存だ。

あいつの場合は、酒が本当に好きだったのもあるけど、この人の場合は酒が好きで飲んでいたのだろうか。

この人も、破天荒で生き急ぐような人で有名だったようだけど、
あいつもそうだけど酒に依存をする人は、どこか人生を達観しているような
諦観でもあるようで共通しているところがある気がする。
そんなあいつでも、最後の入院では相当に苦しんで亡くなった。

この人はその美貌が故に悪い大人の欲望に弄ばれてしまったり、
父親に稼いだ金を使い込まれて借金まで背負わされて人生を狂わされてしまったようだが、
その後も愛してくれる男性に出会えずに寂しくて愛情に飢えていたのだろうか。

人は心の重要なものを喪失するとなにかに依存して埋めあわせをしようとするものだ。

たとえば俺は、恥ずかしながら幼年期に甘えられなかった母からの愛だ
だから、付き合う女性と2人でいるときにやたらと手をつないだり
抱きしめたりベタベタしてしまうところがある。

自分でも理由はわかっている
幼年期に愛情を受けられずに甘えさせてもらえなかった喪失感から来ているものだ。
暖かい温もりに飢えていて、本能的に甘えさせて欲しいのだろう。

誤解して欲しくないのは、決して赤ちゃん言葉を使ったりゴロニャンと甘えるわけではない。

でも、いくらそんなことをしても得られなかったものはあとから得られるものではないし、
幼年期の穴埋めがいまさらできるわけでもない。

なにに依存をしようがそれは代替行為でしかなく、喪失した隙間は埋まることはないのだ。

酒への依存もそんなものがあるんじゃないかと思う。
飲んでも飲んでも隙間は満たされることはないし、いくら飲んでも飲み足りないのだろう。
必ず冷めるし悩みの根本は忘れられないのだから。

あいつとは親友だったけど、なにが原因で酒に依存させているのかまではわからなかった。
そうしないとならない、心の闇についてはついにわからず触れず終いだった。
嫁さんもいるし友達も多いし、人望も熱いし愛人なんかもいたし
仕事にも遊びにも
エネルギッシュで外交的だし人生を楽しんでいるように見えた。
マイホームもあるし少なくも表面上は幸せそうに見えた。

強いてあげるなら、プライドが高くて見えっ張りなところが有り 理想は社会的にこうありたいとする自分と
現状の自分とのイメージの乖離もあった気がする。

俺も10代や20代の時は理想を追って苦しんでいたけど、いつしかそれを捨ててから
力が抜けて楽にはなった気がする。

この人もあいつも死を覚悟しているところを見ても自傷行為と同じなのだろうか。
あいつは結局、死の淵まで酒をやめられなかったし、林葉氏も今も酒を絶ててるか怪しいものだ。

本人も言っているようだけど多分、あいつと同じでこの人はもう何年も生きられないと思う。
あいつには立派な体格と筋肉に体力があったから余命は伸びたのだけど、
この人は華奢だしもっと持たないのではないだろうか。

人でも犬でも死ぬ前の最後は何も食べられなくなるので、多少でも身体の脂肪が多い人は
その貯蓄で生きながらえるのだ。

彼女を見ていると友人の辿った過酷で急な下り坂が予見できて、朝からなんとも言えない気持ちになった。
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by masa3406 | 2014-02-24 11:26


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