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バー

仕事でとある駅に行ったので、帰りに駅の近くで
俺が留年していた時の学年の同級生が経営しているバーにフラリと寄ってみようと思った。
そこは彼が大学を中退して、老舗のバーで何年も修行した後に独立した店だった。

ここはメニューがなく、そいつが常連になるとニーズを覚えていて、
その客の好みに合ったカクテルを作ってくれる。
雰囲気も照明が暗めで大人の落ち着いた雰囲気で、本格的なカクテルを飲ませてくれる店だ。
つまみの類は一切置いていない。

生ビールと焼き鳥やモツの煮込みなどの庶民的なつまみが大好きな、
飲みながら食べる型の俺にとっては、家から遠いこともあるが、ここになかなか来る機会がない。

久方ぶりに駅から程近い半地下にある店に着くと、以前から変わらないカウンターに立つ彼の姿が見えて
懐かしい気持ちになった。
時間はまだ7時頃と早かったせいか、カウンターに座るお客さんは1人しか見えない。
この早い時間帯なら彼と色々話せそうだ。

薄暗い照明の店内によお!久しぶり!と勢いよく入ると 
○○さん!お久しぶり!と彼がそれに応じた。
開口一番になんか疲れてるでしょ?
と言われる。

昨日も会社の近くで同級生と昼飯を食べた時に同じことを言われたけど、
自分では、特に疲れている意識はないのだが、
俺の顔はそんなに疲れているんだろうか。
この暗めの照明の中で俺の顔色までわかるんだから、さすがは普段客商売をしている人間だと感心する。

そこからは、同級生のあいつは何をしてる?最近同級生の誰と会った?という
俺がいま一番聞きたい質問を矢継ぎ早に彼に投げかけた。

彼は店をやっているので、ここにいろんな同級生が顔を出していくらしく、
決まった奴とだけ付き合っている俺と違ってネットワークが広い。
俺は、都心の学校だったのに
なぜか、自然に濃い付き合いが続いているのは、
同じ下町出身の同級生。ローカルネットワークと言っていいような人間関係ばかりだ。
ここは山の手にあるせいか、俺には付き合いが途絶えた山の手系の人も多い。

東京は地方の人から見たら、地方出身の雑多な人間が集まっていると思われがちだが、
高校までの人間関係はハッキリとした、地域性や環境の似通った東京の中でも細分化された
コミュニティーの中で暮らしている事が多いものだ。
そこには東京ローカルなコミュニティーが存在するのだ。

みな地域地域の育ってきたノリや共通の空気感があり、各々地元意識が有り
その近しい人間同士が引き合って交遊することが多いものだ。
もちろん育ちやバックグラウンドは無関係ではなく、
まあ、帰る方向が同じで一緒に帰る頻度が高いことも原因の1つとしてはあるのだろうが。

卒業後の俺は、より下町の人間になっていると言ってもいいかもしれない。

彼の口から出てくる名前 出てくる名前、非常に懐かしい。
卒業以降か浪人時代以降会っていない奴ばかりだ。

俺は留年してこの学年に落ちて来てからは、非常にこの学年によく溶け込んでいたし、
当時、よくそれをみんなから言われたものだ。
しかし、あんなにいろんな奴と仲良くしていたのに、大学で地方に行ってからは、
全く遊ぶこともなくなり、いつしか交流が一部以外とは途絶えていた。

いつも学校の帰り一緒に帰ったり、たまに集まって遊んでいたグループとも、
今は交流がなくなっていて、彼らの動向も知らなかった。
俺の場合は、留年してこの学年に落ちていたので、
卒業してからは、小学校から一緒だった元の学年の奴の付き合いの方が、
メインになったのもあるとは思う。

俺はその時代は非常に楽しかったので、会うことがなくなったみんなとの交友関係を
『過去』として意識的に扱い、忘却の彼方に置いたわけではなかった。

むしろ、みんなと和気藹々と楽しく、とても幸せな時期だったと言ってもいいかもしれない。
ただ、なんとなく会っていなかったし、特に積極的に連絡先を聞いてという熱意はないけど、
いつか機会があれば会いたいものだなぁ。と心の片隅では思ってはいた。

彼の口から出てくる名前に おお!今はどうしているんだ?と1人1人聞いていくと
底抜けに明るいムードメーカー的な存在だった奴が、実はここ何年も引きこもっていた話や
同級生が実は薬で捕まっていた話や、事業で失敗してあわや自殺まで追い込まれた同級生が
いたことを聞いた。
それらには意外すぎて、驚いてばかりだ。

反面、検事になった奴や有名な医師や弁護士になってバリバリ働いている奴、
獣医や歯医者を開業している奴
有名企業に勤める人間もたくさんいて、進学校だっただけに
その後も社会で活躍をして優秀な人生を歩んでいる人間も多いようだ。
俺が仲良くしていたやつも、有名な新聞社や有名な商社に勤めているらしかった。
確かに俺みたいなどうしようもない奴は少数であろう。

俺のもともといた学年もそうなのだが、最近はみんなSNSを用いた交流が活発化していて、
そこで近況報告をしたり、同級生で集まったりよくしているんだそうだ。

あれ?俺は集まりに全然呼ばれてねえぞ。と言うと
○○さんもフェイスブックをやりなよ。
みんな○○さんの連絡先がわからないんだよ。と言われた。

フェイスブックやりなよ。
これは最近人によく言われることだ。

実はフェイスブックは、名前で登録することが多いことを聞いていて、
親しくない奴まで近況を知られたりするのも、
どうも面倒くさいなと以前から抵抗感を持っていて、
それで俺は気が進まずにやっていなかったのだった。

もともと俺は、ネットで匿名でなくなれ合うのが苦手で、ミクシーもすぐにやめてしまったくらいだ。
知った者同士だと、自ずと無難なコメントしかできなくなるのが、
そこはかとなく俺には苦しい。
お約束の展開の予定調和的な、プロレスでもしているような気分だ。

俺はプロレスではなくガチがしたい。

ああいう周知の環境だと、俺が例えばここのように本当に自分が思っているような、
本音が書けないので、なんとも居心地が悪いのだ。

また、あれが始まるのかと思ったら、どうにもこうにも敷居が高い。

俺があまり乗ってこない様子を見て取ったのか、
そいつが そうだ!○○さん いまここで電話番号書いて行ってよ。
同級生が来た時にここから電話するよ。と紙を手渡され携帯番号を書かされる。

話している途中に、彼が雇っているバイトの人が出勤してきてカウンターに入って、
ほかのお客さんの対応はしていたものの、
さらに常連客風の人が何人か入ってきたので、
いつまでも俺が独占しちゃうと悪いなとここでお暇することにした。

彼が丁寧に外までお見送りに来てくれる。
彼はいつも、こうして外まで見送りに来る。
接客も出すぎず程よい距離感で、店がカクテルの腕以外でも続いているのがわかる気がした。
とくに女のお客さんには、その話を聞いてくれるやわらかい雰囲気がいいと思う。

高校時代は、いつもダルそうに授業中寝てたり、普段の立ち振る舞いも
重力に負けたアンニュイな雰囲気を持っていた彼を見て、
こいつは絶対に将来サラリーマンにはならなさそうだと思っていたのだが、
こうして天職とも言える仕事を見つけて、仕事を全うしているのだから大したものだ。

帰宅して夜中の24時頃に見慣れない着信番号から電話が鳴った。
なんだろうと出てみると、それは仲良くしていたグループの奴だった。
たまたま同級生の店にいま来ているらしく
すぐに俺の話になりかけてきてくれたらしい。

最初はやけに敬語なそいつに、懐かしくて昔のあだ名で何回も俺は呼んだ。
今は結婚して子供もいるらしい。
今でもそのグループとよく集まっているんだそうで、
ぜひ来てくださいよ!
それじゃあさっそく企画しますから。と予定を立てられてしまった。

軽い気持ちでバーに立ち寄ったら、思いがけない展開になってしまったようだ。
こういうのも何かの縁なんだろう。
今年は、決まった交友から出て、また昔のように同級生と付き合っていこうと思う。
by masa3406 | 2013-02-09 09:56


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