お花見に行ってきた。
一緒に行ったのはバイト先の20歳の子で、田舎から東京に引っ越してきてまだお花見をしたことがない ということだったので、話の流れで一緒に行くことになったのだ。 普段のその子は穏やかな性格で、おっとりとして物静かで性格がいい子だなという印象を抱いていた。 待ち合わせは上野駅の公園口だった。 俺は車で出かけたわけだが、その日は平日なのに 春爛漫の天候で花見客が押し寄せたのであろう。 上野の周辺が渋滞で車がいっこうに進まない。 駐車場もどこも満車で、それならと待ち合わせ場所の公園口へと登る坂は車が連なって動いていない様子だ。 もうちょっと待っててくれと電話をするも、どうにもこうにもならない。 仕方なく不忍の池を抜けて裏から上野の山を登り、 ようやく空いている駐車場に停めたわけだが、そこが思ったよりも 待ち合わせ場所から遠く、東京芸大のある裏手から回って行くも30分近くも遅刻してしまった。 花見客で賑わう、穏やかな午後の公園口の文化会館の前でその子は穏やかに笑顔さえ浮かべて じっと座って待っていた。 遅れたことを謝罪すると、待たせたことにも少しも怒らずに、 いいよ~ と屈託のない笑顔で言ってくれた。 上野の山の1200本はあると言われる桜は満開で、京成の駅の方向へと下りながら 平日とは思えないほどに訪れた大勢の人たちが思い思いに桜を見ていた。 人はきれいなものを見ると自然と笑顔になるのだろう。 見ている人たちの顔は、日頃のストレスも悩みも今日はどこかに置いてきてみんな笑顔だった。 その子も心からリラックスした表情で、満開の咲き乱れた桜を目の前にずっと笑顔だ。 桜が沢山あることや場所取りをして酒を飲んでいる人たちをもの珍しそうに見ながら、 お弁当でも持ってきたら楽しそうだね。とその子は言った。 そこから不忍の池に抜けて、同じく満開の桜並木が続く不忍の池のまわりを歩く。 歩きながら、何回か桜を背にその子に撮ってくれと頼まれてその子のスマホで撮ってあげる。 反対側の水族館側の池に浮かぶボートを見ていて乗りたそうにしていたけど、 残念ながらその時間はなかった。 弁天堂と言われる五重の塔の周りにはお祭りの屋台が沢山出ていて、 その子はニコニコしながら並々ならぬ関心を示している。 思えばこの道は、昔この近くの会社で働いていた時に上野駅から帰社するときの抜け道に 使っていた。 普段は、こんな賑わうお祭りの雰囲気ではなく、人もまばらで寂しさすら感じるその道を 夕刻時に俺はそこをくたびれた顔で歩いていたものだ。 あの頃から、何度も回り道をしながら相変わらず俺は不安定な人生を送っている。 正社員ではあるけど、将来への確固としたビジョンを持ててない俺は、 とても情けないことだけど、いまだに社会に対して心もとない漠然とした不安を抱いている。 まわりの友達は結婚して背負うものを背負い 仕事で築きあげたポジションに就いているのに 俺だけ何も変わっちゃいない。 焼鳥やお好み焼き たこ焼きと屋台が並ぶ中を 海のある田舎で育ったというその子は、きっと魚派なのだろう。 串に刺したタコを焼いている屋台の前で、これを食べたいと目を輝かせながら言った。 普段は肉派の俺は悩みながらもつぶ貝を頼み、池に面したテーブルと椅子が設置されたところで、 座って2人でそれを食べた。 中身から溢れ出る汁を垂らしながらイイダコにかぶりつくその子は、美味しいと何度も言った。 女の子なら嫌がるかもしれないのに気にしない様子に性格のおおらかさを感じた。 俺もつぶ貝にかじりついてみると思いのほか、コリコリして美味かった。 これ美味いよ食べてみ、とその子にあげた。 不忍の池と桜並木を見ながら食べるのもいいものだ。 お酒を飲みたくなるね。とその子は言った。 そこから再び上野の山の桜を見ながら登り、駐車場へと戻って 晩飯を食べに行くために車を走らせた。 車中で、その子の家庭の話や高校時代の話になった。 その子の父親はアル中で離婚をして母親と暮らしているらしかった。 高校時代から、夜の仕事を年齢を偽ってしていたそうだ。 父親のことに触れた時に、父親に対する大きな嫌悪感が言葉の端々から感じられて、 暗澹とした気持ちになった。 この子は、この若さにして本来はその年齢の子がしなくてもいい苦労をして、 心に深い傷を負ってきたのだろう。 1人で戦ってきて、見なくてもいい大人の世界を見て生きてきたに違いない。 話しているとジムの同じような年齢の子の素朴さとは大違いで、 大人びていて生き急いでいるような印象を受けた。 俺は、普段は穏やかで笑顔のその子の陰の部分を見た気がして、 桜を見ていた時と違って距離を感じた。 俺も高校時代は留年をしたり荒れていたこともあったし、背伸びをしていたこともあったけど、 ガキの男の純粋さや子供っぽい幼稚さや夢がふんだんにあった。 彼女からは、それとは違う大人の部分ともっと深い心の傷を感じたのだ。 もっと、楽に生きろよ。 もう頑張らなくていいよ。 と本当はその子には、言ってあげたかった。 けど、事情をよく知らない他人の俺がとやかく言う事ではないのでやめておいた。 それからレストランで飯を食べて、その子を送って友達の家に行って代表のサッカーを見た。 サッカーも負けてしまい なんかどっと疲れた1日だった。
by masa3406
| 2013-04-01 04:09
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