胃の不調

仕事で千葉県に行って時間ができたので、去年同じ仕事で仲良くしていたYさんに連絡をしてみた。
Yさんは50歳で成人をした娘さん2人を持つお父さんだ。

元エンジニアだという物静かで知的なYさんとは、歳は離れているけど会社ではとても親しかった。
押しつけがましさや強引さとは無縁で押しが弱く、ガツガツとした営業とは無縁で、もの静かなところにも
シンパシーを感じたのかもしれない。

行動やたたずまいにもYさんには気品があった。
優しくて、笑みを絶やさずに穏やかで、全幅の信頼感が持てて一緒にいて安心できる人だったのだ。

仕事の愚痴を言い合ったり、聞き上手なYさんに話を本当によく聞いてもらったものだ。
遠方の時など、帰りに 待ち合わせてよく一緒に帰社した。

その後Yさんは、ほどなくして会社を辞めて派遣の仕事に就いて
その仕事の契約が切れたので、今は求職中とのことだった。

思い立って突然の電話の誘いにも、優しいYさんは快く応じて駅まで出て来てくれた。
そこから電車で1駅乗って
同級生が店長をしている、珈琲が美味しいという喫茶店に行くことにした。
ここまでが遠いので、はじめての来訪だった。

外は4月の下旬なのに5月のように暑く風が吹いていた。

電話では連絡を取りあってはいたものの、こうして会うのは1年ぶりだろうか。
再開した赤いポロシャツ姿のYさんは、柔和な以前と変わらぬYさんだった。
そんなところも安心感を与えてくれる人だ。

Yさん、この日 は午前中に都心に会社の面接で行っていたそうで、
その時に俺に連絡を取って話でもしようかなと思ってくれていたのだそうだ。
けれど、朝早いので仕事中に悪いかなと遠慮をして、そのまま
家に帰ってきたとのことだった。

何ヶ月も会っていなかったのに
2人とも会おうと思い立った日がたまたま同じだなんて、
こんな偶然ってあるんだろうか。

不思議な縁を感じた。

待ち合わせた駅から電車で1駅乗り、2人で友人が店長を勤める珈琲店に向かった。
同級生がよく訪れているので、そいつから情報をもらった道に従って歩くと15分ほどで到着した。

店に入ると、カウンターで働く友人と目が合うと、突然の来訪にびっくりした顔をしてから笑った。

庭園が見える木目調の落ち着いた店内で、平日の午後の時間帯だからだろうか
おしゃべりに来たような主婦で店内は賑わっていた。

郊外店なので、仕事の合間のサラリーマンが休んでいたり、PCで仕事をしたり
商談をしている都会とは随分と客層が違う。
友人は忙しそうにカウンターでなにかを作り続けている。

注文を女の子が取りに来る。
2人とも食べたあとなので、コーヒーと俺はミルクティーを頼む。

Yさんは、副業の投資で稼いでいるのでもうそんなにシンドい仕事はしたくないのだそうで、
そうなるとなかなかいい妥当な案件がないのだそうだ。
ここ最近のお互いの近況話をしたわけだけど、
俺は3月に突如として胃の調子が悪くなった話をした。

あ る朝、会社から地下鉄で移動をしていたら立っているのも辛くなって冬だというのに
冷や汗が出てきてめまいがした。
すぐに降りてホームのベンチで休んだ。

その日を境にみぞおちが重く、何かを食べるとすぐに下腹にガスが貯まるようになった。
消化が悪いせいだろう。便も柔らかくなり、
横になって寝ても鳩尾の張りで寝付けなかった。

空腹時、食後にかかわらず鳩尾が痛く胸焼けがするので、胃薬を1日に4包も5包も飲むようになった。
飲み続けていないと不快でどうしようもない。

いつも腹にガスが溜まっているような状態で下腹部が張る。
なにか最小限口に入れようとキッドカットを1つ食べただけで
ガスが貯まるのには閉口した。

そんな日が続いて、 症状をネットで検索すると胃癌がヒットした。
症状の項目を1つ1つ見ていくと、思い当たるところがいくつもあるではないか。
今まで長く続くような病気をしたことが一度もない俺は、不安な気持ちがもたげてきた。

これはそこいらの病院で診察してたらい回しにされている場合ではないと、
ネットで検索をして胃腸の専門の病院を探して診察してもらった。
最初は、エコーを撮ってもらい胃カメラの予約をした。
エコーでは不快感があるみぞおちを、やけに念入りに技師が見ているのを見て
不安になった。

胃カメラは予約が混み合っていて、最低でも2週間は待たなくてはならなくなり、
俺はその不安なあいだに様々なことを考え過ごした。

生命保険のこと 健康のこと 将来のこと 生きてきてチャレンジをしていないこと 
向き合わないようにしてきたこと。逃げてきたことを振り返った。

人は、いつまでも健康な今のままで将来を考え予見しがちであるが、
いつまでも健康でいられる保証などなく、ある日大病を患わないとも限らないことにを
この時はじめて感じた。

ある日、癌や大病になればそこで可能性が閉ざされる可能性もあるわけで、
何をするにしても健康であることに勝るものはない。

健康であれば、たとえそれが無理なことでもチャレンジはできる。

しかし、病気になれば、チャレンジをすることもできないかもしれない。

俺は健康って1番大事なことなんだとはじめて気づいた。
今まで言葉ではそれは知っていたけど、身をもって実家したのはこれが初めてのことだった。
健康であるだけでそれは財産で幸せなのだと。
そして、健康である今に何事かを成し遂げないと手遅れになりえるのだ。

予備校の講師がCMで、今でしょと言っているが
あれは、まさしく至言であると思う。

人生は、長いようで短く
どんな人間であれ先を予見することは不可能で、いまを生きるしかないのだと。

結局、胃カメラで検査をしたら癌どころか原因になりえるものは見つからず、原因はわからなかった。
胃が上に来ていてえずきやすいとは言われたものの、
胃壁はきれいだったのそうで、ピロリ菌が生息するような胃ではないとのことだった。
でも、確かに体調はある期間は最悪だったし、自分を振り返るいい機会になったと思う。

そして、生活習慣と己の人生を省みるいい機会になった。

俺は、体調を崩したこととそう思ったことをしみじみとYさんに話したのだけど、

そう。
健康がいちばん大事だよ。
だから、身体を壊したら元も弧もないよ。とYさんは言った。

Yさんは、もともと大 きな会社でエンジニアをしていたのだけど、
父親の介護のために会社を辞めざるえなくなって、長い介護生活を送っていた
経験があるので、健康の大切さについては知り抜いていた。

人生は、好きなことをしたほうがいいよ。
一度きりだからねえ。とYさんは言った。

俺の中で、決意が固まった気がした。

ふと友人を見ると、常連であろうお客さんが入ってくると
素晴らしい笑顔で声をかけている。

あいつ、こんなキャラだったんだ。
生き生きとして働いている。
彼の元気が従業員や店内に伝わってお店の雰囲気が明るいのだ。

Yさんの好きなことをしたほうがいいよ。と言ってくれた言葉が心により響いてきた。

Yさんの娘さんが新卒で就職をしたんだけど、
会社でいじめられて毎日泣いて帰ってきていたのだそうだ。

それを見ていたYさんは、辛いならやめてもいいんだよ。
と優しく声をかけてあげたんだそうだ。

その話を聞いていて、この人は本当に愛情にあふれていて暖かい人だな。と思った。
父親が大病を患うと会社をやめてまで介護を続けたようなお人柄だ。

前に愚痴を言って電話を切るときに、じゃあ頑張ってねと声をかけがちなところを

頑張らなくていいからね。
と言ってくれたときにハッとした。

思いやりがあるYさんらしかった。

帰りに電車の駅で別れる時に俺はYさんと握手をした。
俺も人にYさんのように余裕と愛情をもって接してあげられる人間になりたいと思った。
by masa3406 | 2013-04-25 14:58


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