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初出勤と愛犬の死

今日は初出勤の日だ。
夜中のバイト明けで目に隈をつくり寝不足の俺は、朝礼で皆の前で簡単な挨拶をした。
朝礼が終わり上司から仕事の資料を渡され、午前中はひたすらそれを読んだ。
上司は俺にかなり気を遣ってくれて優しくゆっくり慣れてくれればいいからと言ってくれた。
事務所はぶち抜きのフロアで人が沢山いて、他人の縄張りにぶち込まれたみたいで微妙に落ち着かない。
借りてきた猫の心境になった。
資料を読み続け、たまに時計を見るとほとんど進んでいない。
時間が経つのが異様に遅く感じる。
自分の部屋にいた時とは、時の流れが倍にも感じた。午前中がこんなに長く感じたのは久しぶりだ。
昼休みになり、ようやく一人になれた俺は駅近くでうどんを食った。
どっと疲れを感じた。
だらだらした生活をするうちに、すっかり仕事の体力がなくなっていたようだ。こんなんで大丈夫なのかよ俺は
午後は授業形式の研修だった。
同じく中途で入った女の子と一緒に受けたが、初めて勉強する内容でなかなか面白かった。
それから社内見学をして、再びフロアで資料とにらめっこになった。
定時まで、まだ3時間以上ある。
夜中のバイトで睡眠不足のせいか、少し眠くなってきて辛い。

そうしているうちに携帯に着信があった。
親父からだ。
仕事をしているとわかっている、この時間にいったいなんだろうか。

フロアの表に出て電話をすると、
昨日マリちゃんが死んだよ。
と力ない声で親父が言った。(マリは肺癌の実家で飼っている犬だ)
日曜日に会って翌日である昨日にもう死んでしまったことに俺は大変驚いて、
え?本当に?と言った。
今日俺が仕事中にも寺で焼いてしまうと言うので、俺は最後に逢うことができないだろうか?
と親父に言って、明日の朝に延期してもらった。
一昨日実家に様子を見に行ったときは、あと1ヶ月は持ちそうだと思ったのに
嘘だろと驚きが止まらなかった。
新人なので仕事を定時で上がることができた俺は、その足で実家に向かった。

実家に着くと、もう1匹の犬がワンワンと吠えて俺を出迎えてくれた。
当たり前のことだが、もう1匹のいつものようなお出迎えがない。

リビングで親父は1人静かに巨人 中日戦を見ていた。
母親は仕事で遅いので帰宅していない。
親父は昨日、犬をトイレに連れて行こうとエレベーターに犬を抱いて乗ったら
突然がくっとしなだれて、そのまま死んでしまったと半分泣いているような声で言った。
そして隣の部屋に俺を導いた。
ドアを開けると遺体が傷まないように、部屋にはクーラーがかかっていて、
生けたビンに挿した花と、犬が眠るように横たわった遺体があった。
ドライアイスが胴部分に乗せてあった。
それはそのまま呼びかけたら起きだしてきそうなほど、
穏やかで安らかな寝顔だった。
遺体なのにかわいいまんまだ

親父が泣きながら、遺体をなでながら再び昨日死んだときの状況を説明した。
見た目にはいつもと変わらないのだが、
俺もなでてみたら死後硬直して、冷たくなって硬くなっているのはわかった。
見ていると涙が自然に出てきた。
泣けて泣けて仕方がない。
俺は感情を出すのを必死にこらえながら、ポケットに入ったティッシューで
何度も何度も目を拭いた。

親父が呼びかけながら、生きていたときのように持ち上げて抱こうとしたので、
俺はもうやめなよとそれを止めた。
親父が持ち上げかけたときに下側がペタンコになっているのが見えて、
俺はそれをとても見るに耐えなかった。
遺体は一見表面から見たら普通にかわいく
まるで寝ているようにさえ見えるのだが、
下になってるほうが、生きていたら横になって寝ているだけでは
ありえないほどに死後硬直と重力でペタンコになっていた。
もう死体なのだ。 

この子にはずいぶんと楽しませてもらったからね。 親父は涙声で言った。
花瓶に挿して真横に生けてある花が、なんとも物悲しかった。

リビングに戻ると親父が作ってくれた、サラダとトマトパスタを一緒に食べながら、
死んだ犬の話をした。
生きているもう1匹の犬は、元気だったころはあんなに一緒にじゃれたり遊んだりしていた
お姉さんが死んだことをよくわかっていないようだった。
なでると嬉しそうに無邪気に尻尾を振る。
俺にはそれがまた悲しかった。
これが動物の世界なのだろう。

途中でテレビでは、メジャーリーグのシカゴカブスの元中日の福留選手が、
3打数3安打3ランホームランと大活躍の開幕デビューを果たしたニュースが流れていた。
俺はこんな状況なのに、福留すげえとそれを見て思った。

ただ、再び中継に戻った巨人 中日戦にはいつものように試合が頭に入ってこなかった。
慣れない仕事環境と犬の死で疲労感が増した俺は、夜の仕事は休みたかったけど
そうはいかないので、そろそろ帰るよと親父に言った。

俺は隣の部屋に入ると、最後のお別れをすることにした。
明日は俺の仕事中に焼き場で、この生きていた形はなくなってしまうのだ。

今、この瞬間で本当の本当に見納めなんだなと思った。
後は心の中の過去の生きていた時の記憶しか残らない。

頭をなでながら 今までありがとうな。バイバイと心の中で言った。
再び涙があふれてきた。

家に帰り少し仮眠を取ってから、俺は夜中のバイトへと出かけた。
忙しくて悲しみの余韻に浸っている時間もないようだ。
この1ヶ月は体力的にキツイだろうけど、頑張るしかない。

頑張ろう
by masa3406 | 2008-04-01 20:22


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