2011年 12月 23日 ( 1 )

友人の苦境

最近、会っていなかった高校時代の友人から電話がかかってきた。

何回か飲みに行こうと思って突発的に電話をしたんだけど、
仕事が忙しいのか電話に出なかった。

彼は転職後に飲食関係の仕事に就いていて、帰宅が深夜に及ぶことも知っていたので、
たぶん慣れない環境で、疲れているんだろうな。と思っていた。
俺も、仕事で疲れているときは電話に出るのも面倒なときがあるから。

男には、誰しもこういう時期や時があるもので、
その時は、女性と違ってそっとしておいて欲しいものだ。
男はプライドが高い生き物なので、余裕がないときや弱っている時は人を避けるのだ。

その彼が、久しぶりに電話をかけてきたので多分仕事に慣れて
余裕ができたのだろうなと思った。

電話口の彼は、以前と変わりなく元気そうだった。
どうよ?仕事は大変?と聞くと
彼の近況は、俺の予想と大きく反したものだった。

用事もあり、かつて俺も住んでいた彼の住む土地で彼と会うことになった。

久しぶりに訪れた、かつて俺が通っていた駅は
駅構内にいろんな店ができてすっかり様変わりをしていた。
駅を出て、彼の住む家に向かうと駅前に見知らぬ大きなビルが姿を現し、
1ブロックが区画整理で丸々なくなっていた。
幾度ともなく通った商店街も、歩いてみるといくつも店や建物が変わっていることに気づいた。

この町を出てから、もう5年も経ったのか・・・。
時の経過を感じた。

知らないうちに街は徐々に姿を変え、思い出がどんどん消えていくようで、寂しい気持ちになった。

彼の家前で再会をして、彼はここ最近肩が原因不明の痛みに苛まされているということなので、
俺が以前、世話になった接骨医に彼を連れて行った。

それから、北風が吹く寒さのなか幾度とも彼と歩いた道を2人で飯を食いに行った。

ゆっくり話をしたかったので、駅向こうのファミレスに入った。
中は、幸せそうなファミリー客で満席だった。
しばらく待ってから席に通される。
その間、外食産業が長い彼はその店の客さばきの悪さや問題点を俺に解説してくれた。

彼は、転職をした外食産業の仕事を1ヶ月前に辞めていた。

彼に言わせると、職場が嫌だったわけではなくむしろ居心地は良かったらしい。
だが、ある日このまま一生その仕事をやる事を考えたら、そのビジョンが描けず
手に職をつけようと思い立って、その資格を取るための専門学校に行くために
気持ちが急いて辞めてしまったのだそうだ。
彼は、大学卒業以来ずっと外食産業に従事してきたのだが、
その世界から出ると言うのだからよほどの決意だ。

勢いでやめたものの、貯金もろくになかった彼はすぐに支払いで資金も尽き、
金が無くてもう16日ほど家からほとんど出ない生活を送っていたらしい。
それで、俺が電話をしても誘われても金がないので出れなかったのだそうだ。
活動的なイメージの彼とはかけ離れた、いまだかつて見たことの無い姿だった。

さらなる不幸が彼に追い討ちをかけた。
付き合っていた付き合いが長い彼女が、数ヶ月前に故郷に帰ると言って
そのまま音信普通になってしまったらしい。
別れるにしても、冷たい結末だ。

今は、この財布にある金が全財産の状態だよ。
以前はいつも快活だった彼が、打って変わって自信無さげな表情で言った。
あまりにも金が無いので、年末の郵便局のバイトを昨日から始めたということだった。
年末の郵便物の量は尋常じゃない量で、かなりの疲れを伴う作業のようだ。
給料が入るのが、来月末なんだよなあ。
むしろ彼女がいても、今は金が無いからいなくて良かったよ。
帰ってきたところで何もしてやれないし。
だから彼女の故郷を訪ねるつもりも無い
と脱力した顔で力なく語った。

だが、彼は両親と実家に住んでいて、少なくても生活費はかからないはずだった。
仕事を辞めてわずか1ヶ月で、どうしてそこまでお金が無いのかと率直な疑問をぶつけてみると、
今まで高校からの付き合いなのに知らなかった新事実が発覚した。

彼の両親は、かなり前に自営業をリタイアしていたのだが、
実は受け取る年金が無いのだそうで、
家の家賃と生活費の1部を彼がこれまで給料の中から負担していたのだそうだ。
彼には年の離れた姉がいて今は嫁いでいるのだが、
その姉もそれまで両親の生活費を負担していたということだった。
その生活費の支払いもきつくなってきたらしい。

彼の知らなかった事実を初めて聞かされ、俺は言葉を失った。
俺はむしろ、あいつはいつまでも実家で気楽なもんだよな。
くらいに思っていたのだ。

彼の父親は、自営を辞めてからは何も仕事もバイトもせずに今まで来たようで、
俺もサラリーマンのままでいたら親父のようになるかもしれないと
危機感を抱いて手に職をつける必要性に駆られたのだそうだ。

親父は怠け者だからああなったんだ。と友達は何度も言った。

両親は、それまで加入をしていた保険もすべて解約をして、
生活費の足りない分に充てているらしく
聞けば聞くほどに居たたまれない気持ちになった。

彼は、サラリーマンの定年まで働ける仕事ではなく
困窮した老後の両親の生活を目の当たりにして、
死ぬまでできる仕事のための資格を考えているのだ。

これからは、学校に行く資金を貯めるためにバイトをしようと思ったのだが、
両親の生活費の問題もあって、バイトで得る金だけでは足りない
現実的な生活の困窮にぶち当たり、
とりあえずはまた就職をして学費をためることにするのだと言う。

辞めるのを早まったよなあ。
と何度も彼は悔いるように言った。

長い付き合いで見ている彼は、あまり計画的なタイプではない。
これまでも、そういう生活を抱えていたとはいえ
どちらかと言えば彼は金遣いが荒いほうだった。
彼と飲み食いに行くと、いつも注文する量がハンパではなかった。
今も、もちろんご馳走したのだがそうは言いながらも何品も注文していて、
前と何も変わってはいない。
タバコを吸っている。
パチンコも好きだし、どちらかと言えばあったらあるだけ使ってしまうタイプだ。

資格取得の学校は3年間にも及び、年間100万円はすると言う。
バイトにしろ仕事をしながら、両親の生活費とその資金を作るのは大変なことだ。
かなりの我慢や節約を強いられるだろう。
これから生活レベルを落とすのは、苦労するだろうなと内心思った。

俺はできるだけ力づけるようなアドバイスをして、また会おうと別れた。
彼の進みたい方向で活躍している同級生もいるので、紹介をすることにした。
とりあえず、生活のつなぎとなるような当面のバイト探しも苦労しているというので、
俺も同級生が実家に戻って色々と経営しているので、
方々を当たってみようと思う。
俺ができるのは、この程度の力だ。

年末が押し迫る中、また世の中を生き抜くことの厳しさを痛切に感じた。
俺たち氷河期世代は、生きていくことだけで大変だ。

帰り道、駅に向かう北風がとても冷たく感じた。
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by masa3406 | 2011-12-23 06:03